2019年 2月 の投稿一覧

りすのはなし(ブライアン・ワイルドスミス)

この絵本は、私が小学校の図書室で初めて借りた絵本です。

つまり、生まれて初めて自分で選んだ絵本と言えます。

 

 

なんといっても、この表紙の絵の美しさ。

野生のりすのくらしを描いているのですが、りすたちの(かわいいだけだはない)愛らしさや、背景の色使い、表現が、まるで『宝石箱』のような絵本です。

 

それほどまでに、きれいだと思った絵本を、自分の家の本棚に収められたのは、つい最近のこと。

この絵本を書店で見かけたことが無く、心の片隅にはあったものの…

だったのですが、先日、たまたま近所の図書館で見かけ、早速借りてみたところ、やっぱり、

「綺麗だな~」

と、思い、どうしても欲しくなり…

 

けれど、検索してみても、出版元の、らくだ出版がもう無いのか、それすらもよく分からないのですが、情報がほとんど無く、どうやら“絶版”状態らしいということが…。

 

そこで、やむなく古書を購入いたしました。

家にやってきたのは、1976年発行の第2刷。

表紙カバーはかなり汚れていましたが、中は状態も良く、変わらぬ美しさでした。

 

私は、表紙の絵と、この雪の中のりすの絵が特に好きです。

 

りすのはなし2P

 

ブライアン・ワイルドスミスは、たくさんの絵本を出版している絵本作家ですが、らくだ出版から出版されているものは、どれも現在は古書でしか手に入らないようです。

こんなにきれいな絵本が絶版なのは、本当に残念ですので、またいつか、どこかの出版社から再販させることを願って止みません。

 

 

りすのはなし ブライアン・ワイルドスミス作・絵 らくだ出版 1974年

 

 

 

 

よるのおと(たむらしげる)

虫の鳴く音

カエルの鳴き声

水の音

フクロウの声

汽車の音

 

「よるのおと」を感じて、

よるの気配や、世界を体感する絵本です。

 

よるのおと

 

夜、ひとり、おじいちゃんの家に向かう少年が

体験する、ほんのひとときの「夜」のなかに、

全てがあるような、

満ち足りた何かがあるような。

 

この絵本の元になったのは、松尾芭蕉の有名な句、

 

「古池や 蛙飛び込む 水の音」

 

 

この絵本は、美しい青を表現するために、通常の印刷で用いられるCMYK

(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)ではなく、パープル、サファイヤ

ブルー、イエロー、ブラックの特色印刷だそうです。

また、版の作成も、たむらしげるさんが自ら行われていて、

水彩のようなニュアンスは、墨で水彩紙に描いた絵をパソコンに取り込んで組

み合わせているのだそう。

(雑誌「Illustration」 2018年12月号参照)

 

 

特色印刷の手法は、ユリー・シュルヴィッツの絵本「よあけ」やディック・ブ

ルーナの「ミッフィー」(うさこちゃん)にも用いられています。

 

特に、「よあけ」は絵本としても、とてもこの「よるのおと」と

感覚的に近い感じがします。

 

「読み聞かせ」る絵本ではなく、自分でしみじみと感じる絵本。

私は、そんな絵本の楽しみ方、向き合い方が好きです。

 

 

「よるのおと」たむらしげる 偕成社 2017年

 

こちらの絵本もおすすめ

「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ 偕成社

 

 

 

絵本「よあけ」

「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ作・画 瀬田貞二 訳

は、とても静かで美しい絵本です。

よあけ (世界傑作絵本シリーズ)

おともなく、

しずまりかえって、

さむく しめっている。

みずうみの きのしたに

おじいさんとまごが もうふでねている。

 

そして、しずかにしずかに、よがあけていくのを、

読者は絵本で体感するのです。

 

キャンプが苦手な私でも、ちょっと

この、みずうみで、

よがあけるのを体験したいと思わせてくれます。

 

かえるのとびこむおと。 ひとつ、またひとつ。

とりがなく。どこかでなきかわす。

おじいさんが まごをおこす。

みずをくんで

すこし ひをたく。

もうふをまいて

ボートを おしだす。

みずうみに こぎだす。

 

この絵本は「よあけ」が主役で、

「よあけ」を体感する読者が主役で、

一般的な絵本のプロセスとは違っている気がするけれど、

多くの絵本作家が、好きな絵本、理想の絵本として挙げています。

 

作者のユリー・シュルヴィッツは1935年ポーランド生まれ。

「よあけ」のモチーフは、唐の詩人柳宗元の詩『漁翁』によるそうです。

 

「漁翁」柳宗元

漁翁 夜 西巖に傍いて宿し

暁に淸湘に汲みて 楚竹を然く

煙銷え日出でて 人を見ず

欸乃一聲 山水綠なり

天際を迴看して 中流を下れば

巖上無心に 雲相逐う

 

〈意解〉

年老いた漁師が、夜になると、西岸の大きな岩に舟を寄せて停泊した。

明け方に彼は清らかな湘江に水をくみ、楚の竹を燃やして朝食を作る。

やがてもやが晴れ太陽が昇ると、もはや漁翁の姿は見あたらない。

舟をこぐかけ声がひと声高くひびいて、山も水もあたりはすべて

緑一色に染まっている。

空の果てを遠くふり返りつつ、川の中ほどを下って行くと、

雲が大岩の上空に、無心に追いかけあっているように流れていた。

(公益社団法人 関西吟詩文化協会HP より引用)

 

絵本は、この詩のとおりに展開していきます。

詩とちがっているのは、「まご」が一緒にいるというところですが、

これは、絵本を読む子供たちに親しみを感じさせる工夫かと思います。

 

ちなみに、この絵本は、通常の印刷で使用される4色(シアン・マゼンダ・イエロー・ブラック)ではなく、この絵本のためのインクを使用した、『特色刷り』だそうです。

最後ページの夜明けの瞬間の絵は、本当に色が美しいです。

 

絵本をつくる人は、

「こんな絵本をつくりたい」

と、夢見るような絵本です。

 

 

「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ作・画 瀬田貞二 訳 福音館書店  1977年

 

 

 

 

 

 

 

 

おおきな ものの すきな おうさま(安野光雅)

おおきな ものの すきな おうさまは、何でも かんでも 大きなもので

生活をしていらっしゃいます。

おおきなもののすきなおうさま (講談社の創作絵本)

屋根よりもたかいベッドで目覚め、

プールのような せんめんきで かおを洗い、

庭のような広いタオルで顔をふき…

 

百年かかっても食べきれないほど おおきなチョコレートを

毎日お食べになった、おうさまは、案の定、虫歯になり、

おおきな おおきなくぎぬきで、やっとのことで歯を抜きます。

 

もう、とっても不便そうです。

そして、国じゅうの人たちを振り回しているおうさまです。

おバカで かわいらしい おうさまですが、きっと国は平和なのでしょう。

(おおきな おおきな チョコレートは かなり魅力的です)

 

そんなおうさまが、おおきな おおきな植木鉢を作らせました。

 

そのうえきばちに、たった一輪、咲いたちゅーりっぷは…

 

そのちゅーりっぷを見て驚く、おうさまと、

おおきなうえきばちの まんなかに咲くちゅーりっぷが、

とてもなぜだかとてもかわいくて、

私は好きな結末です。

 

安野光雅さんの、やはり緻密な絵が、

「大きなものって大変」

という、説得力があり、安野さんがあとがきで、書かれている、

エジプトの王は、ピラミッドという巨大な墓をつくらせたが、大きな花を咲かせることだけはできなかった。

生命を人間がつくることはできない。

花一つ、虫一つが、かけがえのないものであることを思わねばならぬ。

 

という言葉にとても共感します。

人間の、愚かだけれど可愛らしい感じを描きたかったということが、

伝わってくる絵本です。

 

 

「おおきな ものの すきな おうさま」安野光雅 作・絵 講談社 1976年

 

安野光雅さんの他の作品

「ふしぎなえ」